2014年10月26日

ペロティヌス 「地上のすべての国々は」

音楽の最初は単旋律だったと思う 
そして多分単純な和音だったり対旋律がついて 
少しだけふくらみが出てきたのだろう 
和音や対旋律は二つが三つになり、四つになり 
さらに複雑化していったのだろう 

12世紀の中旬にはそうした音楽が伝わるようになる 

12世紀中盤の作曲家ペロティヌスの 
「地上のすべての国々は」という聖歌がある 

もし 
「この曲は音楽史の中で重要な曲である」とか 
「この曲は宗教曲であるから居住まいを正して聴かなければならない」とでも言おうなら 
多分好き好んでこの曲を聴こうとする人はいないだろう 
私もそのような「線香臭い」曲は遠慮したいと思う 

しかしこの曲を聴いたとき 
そこに生き生きとした「鼓動」を感じ取る 
新しい時代の「爆発」を聴きとるような気がする 

この曲では、例えば冒頭の「viderunt」という言葉を歌うとき 
最初の「vi」という音節だけを快活なリズムに乗せて延々と引き伸ばし続ける 
そして暫くしてから次の「de」を新たな音程で延々と引き伸ばす 
何分かの間そのようなことの繰り返しをしたのち 
残りの歌詞は「グレゴリオ聖歌」で「はしょる」かのようにつづける 
そしてまた、別の単語で、延々と引き伸ばしを続ける 

此処に、「旋律」に「言葉(単語)のニュアンス」を込める、という考え方があるのなら
この「旋律」は「言葉のニュアンス」を破壊しているのかもしれない 

だが、この音楽には確実に「躍動」がある 
何処か「歓喜」を思わせるような明朗さがある
そのリズムは「ダンス」のための音楽のようにさえ思える 
もし「中世」という時代に神秘的なイメージを感じていたとしたら 
(そのイメージは多分に勝手な想像なのだが)
この明朗さは何なのだろう? 
いや、「理性」という物から一旦離れて 
体で、感情で「明朗さ」を直接に感じさせてしまうのが 
「中世」の持つ「神秘」なのだろうか 

ただ、この手の音楽は演奏者によって印象が異なってくる 
私はデイヴィッド・マンロウ指揮/ロンドン古楽コンソートの演奏でこのように感じた 
しかしもう一枚手元にあるヒリアード・アンサンブルの演奏は 
少しリズム感が減退して、少しぼやけたような印象を持つ 
これは、残響のやたらに長そうな大聖堂でこのように演奏したならば 
音が幾重にも反射して 
実に幻想的な響きがするのかもしれない 

いずれにしても 
この頃の音楽というものは 
決して「博物館」や「百科事典」の中にだけ存在している音楽ではない 
むしろ若い人たちの感性が 
このような音楽に新鮮なものを感じるのかもしれないように思う


    



タグ :音楽



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Posted by 旅人 at 23:29│Comments(2)音楽
この記事へのコメント
旅人さま
11月3日13時に聖光学院オラトワールでオルガンとグレゴリア聖歌の演奏会があるそうです。上手かどうかはわからないです。(無料)
わたし、単旋律のグレゴリア聖歌も回廊のある静謐な修道院から聞こえてきたら素敵に思うけれど。
ペロティヌス、さっそく図書館で見つけて聞いてます。確かに、なにかしら明るいですね。15、6世紀のパレストリーナやモンティベルディたちの精神性がまだ先というべきか?バードもビクトリアも素敵ですもの。
まだ、聞きかけですから、最後まで聞いてみます。ディビドマンロウ指揮、ロンドン古楽コンソートのCDです。
新しい知識をありがとうございます。
Posted by ミミ at 2014年10月31日 20:25
ミミさん、こんにちは
グレゴリオ聖歌はその神秘的な単旋律によって「中世」というイメージを具現しているような感があります。そのようなものが「ひゅじゅん」となっている世界の中ではペロティヌスの音楽は「枠をはみ出たもの」が持つ「アバンギャルド」なもの、「破壊的」なものを感じさせられます。ただ、ペロティヌスもまた「宗教」の枠の中にはいたと思います。作り出した新しい音楽の「雰囲気」が宗教的な喜びを反映しているのかもしれません。それは精神性とはまた違った「直観的なもの」「感情的なもの」に寄り添ったものなのかもしれません。
Posted by 旅人旅人 at 2014年11月01日 17:18
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