備忘録に代えて

「今年も桜の季節が過ぎていった」　
このように言ったとき　
この「桜」は大概「ソメイヨシノ」のことを連想するように思う　
私自身も、長尾川河畔のソメイヨシノが盛期を過ぎたのを見て　
また来年の花の時期を待ち焦がれていることを感じる　

しかし、その長尾川河畔を歩くだけでも　
ソメイヨシノ以外の桜を見ることが出来る　
いつもそれらの桜の咲くのも楽しんでいる　

一昨日、付き添いで病院に一晩詰める　
夜が明け、代わりの者と交代したのち、バスに乗って水落町まで出る　

水落町付近の外堀はソメイヨシノが厚く咲くのだが　
もちろん、今ではそのほとんどが散っている　　
しかし、それらの木々の幹や枝に　
残り花がチラホラ咲いている　
このようになって初めて、ソメイヨシノを｢一輪の花｣として見るようになる　
あの、乱舞によって私の目を眩惑した「ソメイヨシノ」ではない　
その「一輪々々」は色の薄い、可憐な小さい花だ　
｢春の魔法使い｣の本当の姿を見る　

花の名残を惜しみながら外堀沿いを歩くと　
所々にツツジの花が咲き始めている　
主役は確実に交代している　








駿府城公園のなかに入る　
此処でもソメイヨシノはほとんど花を散らしている　
巽櫓近くにある枝垂れ桜も葉の方が優勢になり　
色彩が淡くなっている　

そうした公園の中で、｢沈床園」近くの一角がにわかに色付いている　
その部分も、少し前まではソメイヨシノが咲き誇り　
この下では「花見の宴」に酔う人々でにぎわっていた　
そのソメイヨシノに交じってそこにある八重桜が　
今満開となっている　






八重桜は品種の名前ではない　
多くの花びらが重なった桜の総称のようだ　

八重桜はまたの名を「牡丹桜」ともいう　
「八重桜」という響きには雅趣を感じるが　
「牡丹桜」という響きには少し重い感覚を覚える　


一輪の花を比べるのなら　
八重桜はソメイヨシノに比べれば大きく、花弁の重なりも厚い　
それに色が濃いからずいぶんと自己主張が強いように思える　
最初はソメイヨシノよりも八重桜の方が　
見栄えがするのではないだろうかと思ったものだった　

しかし、八重桜に比べれば清楚ともいえるソメイヨシノが群れ咲いたとき　
その空間を支配してしまう陶酔感に抗することはできない　
もし同じボリュームで八重桜が群れ咲いたとしても　
その色彩に却って気圧されてしまうのではないだろうか　

多くの桜名所が「ソメイヨシノ」になびいていったとしても　
さして不思議ではない　

しかし、一輪の花に込められた生命力は　
八重桜にその多くを感じる　







長尾川河畔を歩く　
此処でもソメイヨシノは大方散っている代わりに　
八重桜が花を咲かせている　
ソメイヨシノの並木道の所々に八重桜が混じっており　
場所によっては短い並木を作っている　
だから長尾川河畔は、ソメイヨシノが散った後もしばらくは桜を楽しむことが出来る　










だが、今桜を楽しむとしたら　
橘高校付近にある鬱金桜がよい　
鬱金桜の花びらも八重に重なっており　
八重桜の一種として語られることもあるようだ　
緑がかった薄い黄色の花をつけるのだが　
花の終期には黄色が桃色に変化する　
一本の木の中にも　
この二色の花を見ることが出来る　

鬱金桜ともなると、並木道の花というよりも　
一本の木と花を単独で鑑賞する雰囲気が強いように思う
そして花の色が変化する様は　
「花が生きている」という事を実感する　
不思議な花だ